第二話

【翔斗】「これから頑張って大学を目指してやるんだ」

【陽介】「ええっ、お前がか? う、嘘じゃないだろうな?」

【翔斗】「俺の場合はまだ可能性が残されているんだよ、おまえと違ってな」

【陽介】「ふっ、そう褒めるなよ」

どう聞けばこれが褒め言葉になるのだろうか。謎だ。

【陽介】「まあ、大体わかる。どうせ、早田目当てだろ?」

意外と鋭い奴だ。俺の弥生目当てはどうやらバレバレらしい。


三者面談の中で、俺は堂々と進学希望と言い切った。
進学しろとうるさい俺の母親は終始にこやかな表情だったが、
担任の権藤の顔はかなり渋かった。
俺が、弥生と同じ地元国立大学を志望すると言ったからである。

【権藤】「難波君。進学希望は大歓迎だが、君は、自分の成績表を見たことあるかね?」

【翔斗】「はあ、いつも立派な成績だと我ながら感動していますが…」

【権藤】「まあいい。ただ、これから先、並々ならぬ努力が必要だとは、分かってるだろうね」

【翔斗】「はい、まあ、それは…」

実際、不可能ではないが、かなりキツイ。
権藤が俺の成績表を見たことあるかと言ったのも、嫌味な表現ではあるが、
まんざら外れてはいない。

しかし、進学希望、しかも国立ともなれば、これからは本当に努力しなければならない。
厳しい現実だ。言ったそばから逃避したくなった。


三者面談も終わり、これから帰宅となった時、陽介が能天気な顔で俺に言ってきた。

【陽介】「なあ翔斗、おまえ本当に進学希望と言ったのか?」

【翔斗】「本当だ」

【陽介】「そうかー、おまえがねー。それじゃ、これからは、
おまえも相当マジになって勉強しなくちゃね。俺もできるだけ応援してやるぜ」

【翔斗】「ああ。おまえの助けを借りるようになったらおしまいだが、よろしく頼む」

【陽介】「ところでさ。面談も終わったし、帰り、ゲーセンでも寄ってかない?」

【翔斗】「応援すると言ったとたんに誘惑する気か…?」

【陽介】「まあまあ、勉強には息抜きも大事だって言うじゃないか」

【翔斗】「今まで息を抜きまくってきたからな。今日は遠慮しとくよ」

決意した当日から遊ぶようではさすがにダメだと思った俺は、
陽介の誘いをきっぱり断ると、その顔面に蹴りを入れて帰途についた。

【陽介】「別に蹴ることないだろー!」


授業について行けていない俺は、まず復習から始めなければならない。
というか、どこから分からなくなったのか、それすらよく分からない。

そんなことを考えて学校の玄関を出ようとした俺を呼び止める、魅力的な声があった。

【弥生】「あ、難波君、これから帰り?」

【翔斗】「ああ。早田もか?」

【弥生】「うん。でも、途中で喫茶店に寄って帰ろうと思って。よかったら、一緒しない?」

ドキッとするようなことを言ってくれる。

【翔斗】「え、なんで急に俺を誘ってくれるの?」

【弥生】「それがさぁ、有効期限が今日までの割引券が二枚あるのよね。
本当は美咲を誘おうと思ったんだけど、美咲、今日は塾だから急いでるって…。
それで、手近な人を呼び止めたわけ」

弥生にとって俺が手近な理由は、小学校の六年間、ずっと同じクラスだったからだ。
弥生は中学は女子校だったので、俺とはそれっきりになったが、偶然同じ高校で再会した。
その女子中学で出会った弥生の友達が、今野美咲というわけだ。

一方的に彼女認定している俺にとって、これはまたとないチャンスである。
しかし、帰って勉強するために、陽介の顔に蹴りを入れて決意を固めたばかりだ。
これで喫茶店などに行けば、陽介の尊くない犠牲がムダになる。

ここはなんと答えるべきか…。

【翔斗】(どちらかを選ぶ)

「せっかく誘ってもらったことだし、じゃあ一緒に喫茶店に行こうか」

「せっかく誘ってもらったのに悪いけど、俺、勉強がんばることにしたから」
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