第三話

【翔斗】「せっかく誘ってもらったことだし、じゃあ一緒に喫茶店に行こうか」

このさい、陽介の犠牲はムダになってもらおう。

【弥生】「うん、せっかく二枚あるんだから使わなきゃ損だもんね」

こうして俺は、弥生とおしゃべりしながら喫茶店に向かった。
途中、ゲーセンの前を通りかかった時に、そこにいた陽介が何か不満そうに叫んでいたが
俺の耳にそんなものは聞こえない。

俺たちは仲良く、喫茶店「盆汁流(ぼんじゅーる)」に入った。
…てか、もう少しマシな店名を考えろよ店主。


【弥生】「…ふうん、難波君も進学するんだ。一緒にがんばろうね」

【翔斗】「ま…まあ、俺は相当がんばらないといけないけどな。
早田と違って、頭良くないから…」

【弥生】「そんなことないよ。小学校の時は、私より良い点とってたじゃない。
たぶん、そのあと勉強しなかっただけで、ちゃんとやれば私よりも上でも行けるよ」

【翔斗】「そんなことないって。早田より上だったのは、せいぜい小学二年生までじゃないか」

【弥生】「でも、志望校も同じだし、一緒に合格できたらいいね」

三者面談の後だから話題は進路のことに傾きがちだが、俺にとっては至福の時間だった。
何より、弥生が「一緒に合格したい」と言ってくれたことが嬉しかった。

楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、日が沈みかけたころになって
俺たちは家に帰ることにした。

【店員】「520円がお二人で、1040円ですね…あ、100円割引券が二枚で、840円です」

割引券を持っている弥生がひとまず全額払って、俺たちは店を出た。

【弥生】「さて、難波君の分、520円返して」

【翔斗】「え? 割引券で、420円ずつだろ?」

【弥生】「はぁ? 割引券は二枚とも私のものよ?
ただ、一人で二枚いっぺんに使えないから、難波君に来てもらっただけで…
誰もあげるとは言ってないんだけど」

つまり俺はただ利用されただけだったらしい。
一緒に行く相手は、人間でさえあれば誰でもよかったのだ。

しかし、弥生と二人きりの時間を長く過ごせただけでも、俺にとってはお金以上の価値があった。


商店街をまたおしゃべりしながら、一緒に帰る。
ゲーセンの中をちらっと見ても、もう陽介の姿はなかった。
陽介も、俺が弥生を好きなことは知っているから、許してくれるだろう。

とその時だった。突然、弥生が足を止めた。

【翔斗】「ん、早田、どうしたんだ?」

弥生は答えない。
ただ一点をじっと見つめていた。一体何があるのだろう。
俺も、弥生の見ている先をたどって見た。
そこは女の子向けのファンシーなグッズを売っているような店だった。

【翔斗】「あれは……今野…?」

【弥生】「み、美咲…、今日は遅くまで塾だって言ってたのに、どうして…。
塾だから私の誘いを断ったはずなのに、どうしてこんなところに…」

今野の奴、弥生に嘘をついたのか。

弥生に見られてることも気づかず、今野は、そのまま店を立ち去って行った。


翌日から、弥生は今野に近づけなくなってしまった。
きっと裏切られたことで傷ついているのだろう。
弥生と今野は、ずっと仲がよく同じグループに属していたが、
どちらかというと、今野のほうがグループのリーダー的存在だ。

その今野に近づきにくくなるということは、弥生が独り外れてしまうことを意味する。

このままでは、いけない。
俺は、弥生やグループの女子がいない時を見計らって、今野を呼び出した。

【美咲】「あれ? 難波君たち、私のこと見てたんだ」

しれっと言う。

【翔斗】「見てたんだじゃない。おまえ、塾と言って早田の誘いを断ったんだろ。
なんで、あんなところでぶらぶらしてたんだよ?」

【美咲】「だって、本当のこと言ったら、あの子が傷つくでしょ?
『うざい子とは行きたくない』なんて言ったらさ…」

俺は今野の言いかたにムッとした。

【翔斗】「おまえが早田を嫌いというなら、それは自由かもしれん。
でも、だったら何故いつも仲良くしてるんだ。普段の態度はみんな嘘なのかよ!」

【美咲】「追い出したら、あの子がぼっちになるから、中学のよしみで、入れてあげてるだけよ。
へー、弥生は、本当に私と仲がいいつもりなんだ。
じゃあ入れてもらって感謝もしてないんだね。なんか裏切られた気分だわ」

【翔斗】(どちらかを選ぶ)

「早田はおまえを親友だと思ってるんだ。裏切ってるのはおまえのほうだろ!」

「昔は本当に仲がよかったじゃないか。どうして早田をうざいと思うようになったんだ?」
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