第五話
【翔斗】「俺、隣県の公立大学をチャレンジしてみます」
【権藤】「そうか。でも、そこも厳しいことは忘れるな。今から勉強、がんばれよ」
公立大学のほうは、模試で合格率40%だ。
不可能ではないが、厳しいというのは本当だった。
入試には、思わぬ失敗をすることもあれば、まぐれ当たりもある。
俺はこのとき、まぐれ当たりに恵まれて、公立大学に合格することができた。
志望校じゃなかったとはいえ、大学生活はそんなに悪いものじゃなかった。
ただ、俺の心には大きな穴があいたままだった。
ある日曜日、俺は目的もなく大学近くの繁華街を歩いていた。
すると、思いがけない人とばったり出会った。
【美咲】「あっ…難波君…」
【翔斗】「えっ? 今野が県外で就職したとは聞いてたけど、ここだったのか!」
街で偶然会って、今野と一緒に歩く。
まるで、あのときのようだった。
【美咲】「難波君、大学生活はどう? 楽しい?」
【翔斗】「まあまあだな。悪くはない、って感じだ。おまえのほうは?」
【美咲】「社会人って大変。覚えなきゃいけないことだらけだし、怒られるし…」
【翔斗】「だろうなぁ。でも、おまえなら大丈夫だよ」
ふと、今野が立ち止まった。
【美咲】「あのときはごめんなさい…。私のせいで、難波君まで弥生と距離ができちゃって…」
【翔斗】「まあ、…。でも、あれがなければ俺の恋が成就したかと言えば怪しいものだし、
おまえがそんなに責任感じる必要はないさ」
そうは答えたものの、俺は実際にはわだかまりがあった。
あれがなければ、もしかしたら…という気持ちもあったからである。
【美咲】「ねえ…あのときの話の続き、聞いてくれる?」
【翔斗】「続き…って?」
【美咲】「うん。難波君が、弥生も悪気じゃないはずだって言ったとき、
私は何も答えなかった。いや、そうじゃない。答えられなかった…」
俺は足を止めて、今野を見た。今野はばつが悪そうに、その答えを言った。
【美咲】「私は…たしかに、弥生の言葉で傷ついた。でも、難波君に言われて気がついたの。
私はそれを引きずって、弥生のことをうざいと思うようになった。
でもそれは弥生が悪いからじゃなく、私が…あの子に、進学できるあの子に、嫉妬してたんだって。
私は進学をあきらめられずに、塾に通い続けてた。でも結局受験できなかった。
私はそんな、ぶつけようのない怒りを、弥生にぶつけてたんだって…」
俺はその晩、独りで考えた。
今野は今野なりに悩んでいたのだろう。
進学できないこと、そして、親友をねたむ自分自身の心にも。
大した悩みもなく大学生をやっている俺や弥生よりも、あいつは苦しんでいたのだ。
俺はそれ以来、ときどき今野と会うようになった。
そんな日々を過ごしているうちに時が経ち、俺もとうとう就職活動を始める時期になった。
【美咲】「難波君、よかったら、うちの会社を受けてみない?」
【翔斗】「今野の会社って、どんな感じなんだ?」
【美咲】「うーん、そうねぇ。実績の高い人はすごくボーナスがもらえるよ。
ただ、そのぶん競争が激しいけど…」
【翔斗】「俺は実績なんかあげる自信はないし、競争に勝てる気もしない」
【美咲】「そこは私が仕込んであげるから大丈夫! 私はこれでも同期の間では成績いいんだから」
【翔斗】「そういやおまえ、学校の先生になりたかったんだっけ。俺を生徒にするつもりか…?」
俺は実際、実績をあげる自信も、競争に勝てる自信もなかった。
今野の会社になじめるかどうか、あまり自信がない。
しかし、社会人になればどこの会社でも、多かれ少なかれ競争から逃げることはできない。
それなら、今野という頼りがいのある友人のいるほうが、心強いかもしれない。
【翔斗】(どちらかを選ぶ)
「うん、じゃあおまえの会社を受けてみることにするよ」
「いや、俺は競争の厳しい会社はつらそうだから、やめとくよ」
【権藤】「そうか。でも、そこも厳しいことは忘れるな。今から勉強、がんばれよ」
公立大学のほうは、模試で合格率40%だ。
不可能ではないが、厳しいというのは本当だった。
入試には、思わぬ失敗をすることもあれば、まぐれ当たりもある。
俺はこのとき、まぐれ当たりに恵まれて、公立大学に合格することができた。
志望校じゃなかったとはいえ、大学生活はそんなに悪いものじゃなかった。
ただ、俺の心には大きな穴があいたままだった。
ある日曜日、俺は目的もなく大学近くの繁華街を歩いていた。
すると、思いがけない人とばったり出会った。
【美咲】「あっ…難波君…」
【翔斗】「えっ? 今野が県外で就職したとは聞いてたけど、ここだったのか!」
街で偶然会って、今野と一緒に歩く。
まるで、あのときのようだった。
【美咲】「難波君、大学生活はどう? 楽しい?」
【翔斗】「まあまあだな。悪くはない、って感じだ。おまえのほうは?」
【美咲】「社会人って大変。覚えなきゃいけないことだらけだし、怒られるし…」
【翔斗】「だろうなぁ。でも、おまえなら大丈夫だよ」
ふと、今野が立ち止まった。
【美咲】「あのときはごめんなさい…。私のせいで、難波君まで弥生と距離ができちゃって…」
【翔斗】「まあ、…。でも、あれがなければ俺の恋が成就したかと言えば怪しいものだし、
おまえがそんなに責任感じる必要はないさ」
そうは答えたものの、俺は実際にはわだかまりがあった。
あれがなければ、もしかしたら…という気持ちもあったからである。
【美咲】「ねえ…あのときの話の続き、聞いてくれる?」
【翔斗】「続き…って?」
【美咲】「うん。難波君が、弥生も悪気じゃないはずだって言ったとき、
私は何も答えなかった。いや、そうじゃない。答えられなかった…」
俺は足を止めて、今野を見た。今野はばつが悪そうに、その答えを言った。
【美咲】「私は…たしかに、弥生の言葉で傷ついた。でも、難波君に言われて気がついたの。
私はそれを引きずって、弥生のことをうざいと思うようになった。
でもそれは弥生が悪いからじゃなく、私が…あの子に、進学できるあの子に、嫉妬してたんだって。
私は進学をあきらめられずに、塾に通い続けてた。でも結局受験できなかった。
私はそんな、ぶつけようのない怒りを、弥生にぶつけてたんだって…」
俺はその晩、独りで考えた。
今野は今野なりに悩んでいたのだろう。
進学できないこと、そして、親友をねたむ自分自身の心にも。
大した悩みもなく大学生をやっている俺や弥生よりも、あいつは苦しんでいたのだ。
俺はそれ以来、ときどき今野と会うようになった。
そんな日々を過ごしているうちに時が経ち、俺もとうとう就職活動を始める時期になった。
【美咲】「難波君、よかったら、うちの会社を受けてみない?」
【翔斗】「今野の会社って、どんな感じなんだ?」
【美咲】「うーん、そうねぇ。実績の高い人はすごくボーナスがもらえるよ。
ただ、そのぶん競争が激しいけど…」
【翔斗】「俺は実績なんかあげる自信はないし、競争に勝てる気もしない」
【美咲】「そこは私が仕込んであげるから大丈夫! 私はこれでも同期の間では成績いいんだから」
【翔斗】「そういやおまえ、学校の先生になりたかったんだっけ。俺を生徒にするつもりか…?」
俺は実際、実績をあげる自信も、競争に勝てる自信もなかった。
今野の会社になじめるかどうか、あまり自信がない。
しかし、社会人になればどこの会社でも、多かれ少なかれ競争から逃げることはできない。
それなら、今野という頼りがいのある友人のいるほうが、心強いかもしれない。
【翔斗】(どちらかを選ぶ)
「うん、じゃあおまえの会社を受けてみることにするよ」
「いや、俺は競争の厳しい会社はつらそうだから、やめとくよ」
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