第六話
ここは、ひとまず古文をとばして次の問題を先にやろう!
次以降の問題でも苦労したが、必死になって解いていった。
古文をとばしているから、最後まで終わった時点でまだいくらか時間がある。
よし、ここから古文に戻って…。
そのとき俺は、衝撃的な事実に気づいた。
【翔斗】「最後の問題までやったのに、解答欄が余っちゃった…。なぜだろう?」
原因はとうに分かっていたが、あまりにも受け入れたくない現実だった。
【翔斗】「大学入試センターもうっかり者だなあ…解答欄の数を間違えるなんてさ、はは…」
そんなわけがなかった。
ぎゃあああああ! 解答欄をずらしてマークしてしまったああああああ!
早く書き直さなくては! と、俺は慌てて消しゴムを走らせる。
そして次の瞬間、またも自分のあやまちに気づく。
【翔斗】「ひとつずつ消して書き写せばよかったのに、一気に全部消してしまったあああああ!
問題を解き直さないといけなくなったああああああっ!」
一番最初の国語で大失態をおかした動揺で、次の科目、その次の科目と負の連鎖が続いていく。
試験会場から出てきた俺の顔を見た瞬間、弥生も、俺の運命を悟ったらしかった。
【弥生】「だっ…だめでも、死ぬわけじゃないし…じ、人生これからだよっ…」
慰めにならなかった。
俺は当然のように不合格となり、弥生は当然のごとく合格した。
思えば、これが二人の実力だったのかもしれない。
高校卒業後、俺は就職活動をしなければならなくなった。
あちこち会社めぐりをした中のひとつに、陽介の就職した会社があった。
【陽介】「翔斗さあ、もしもうちで内定もらえたら、もうここに決めない?
いつつぶれるか分かんないような情けない会社だけど、働き心地はそんなに悪くないしー」
【社長】「北島君。キミさえもっとマジメに働けば、うちがつぶれる心配はないんだけどね」
社長のメガネがキラッと光った。
【陽介】「ひっ! しゃ、社長、聞いてたんスかっ! えーっと、肩をおもみしましょうか、はは…」
【社長】「なんなら、難波君を雇ってみてもいいんだよ、キミのかわりに、ね…」
【陽介】「そっ、それはお許しをぉぉぉ!」
【翔斗】「じゃあ社長、そういうことで、よろしくお願いします!」
【陽介】「こらあっ! よろしくお願いするなよっ!」
結局俺は、陽介の会社に雇われることになった。同学年だが陽介よりも後輩になる。
まさか職場まで陽介と一緒になるとは思わなかった。これが腐れ縁というやつだろうか。
俺は就職、弥生は大学生、ちなみに今野は県外に出て働いている。
それぞれの道に進んだものの、俺はずっと弥生が好きだった。
しかし、仕事が忙しくて余裕がなく、会う機会もなくなったせいで、なかなか告白できずにいた。
そんなある日。
【陽介】「翔斗さあ、おまえ、まだ早田のことが好きなの?」
【翔斗】「ま、まあな…」
【陽介】「そうか…。じゃ、おまえにつらいこと言わなきゃなんないけど…」
俺はドキッとした。
【翔斗】「そ、早田に彼氏でもできたのか? は、ははは…まあ、そうだよな。
俺なんかとは、最初から釣り合わなかったんだ。あいつには、俺よりもっといい男が…」
陽介の目は厳しかった。
【陽介】「もしそうならいいんだよ。おまえは落ち込むけど、早田が幸せになってくれれば…。
おまえもきっとそう考えて、あきらめようとするだろ。それならいいんだ。
そうじゃないから、つらいんだよ」
【翔斗】「ど、どういうことだ。早田に何か起きたのか?」
【陽介】「実は、大学行ってる先輩から、こないだ聞いた話なんだけどね…」
弥生は、高三の終わりにいじめられたのがショックだったらしい。
いや、そのいじめの原因が、自分が今野を傷つけてしまったことも、弥生にとってはショックだろう。
大学生になっても、弥生はずっと友達ができなかった。
機会はいくらでもあったはずなのに、作ろうとしなかった。
【陽介】「もちろんおまえを責めるつもりはないけど…。
このときおまえが行って、告白してやればよかったんだよな。
早田もおまえのこと、嫌いじゃなかったし」
大学に入っても独りで寂しそうな弥生に、親切に声をかけてくれた先輩がいたらしい。
それが、陽介の先輩の言葉を借りると、「よりによって」という男だったのだ。
【陽介】「早田はよっぽど寂しかったんだろうなぁ。最悪の男に、引っかかっちまった…。
やばい連中とつながってるような男で、優しい言葉で女を誘い込むような奴らしい…」
【翔斗】「そ…それで早田は今どこにいるんだ」
【陽介】「俺も先輩にそれを聞いたけど、教えてもらえなかった。
『教えたら行くだろ』ってね…。そういう場所にいるらしいんだ…」
陽介は抑えた声で、しかし、はっきりと言った。
【陽介】「早田のことは忘れろ! あいつはきっと、もう普通の世界には戻って来ない。
俺たちの手の届かない場所に、消えちまったんだよ…」
【翔斗】「早田……俺は…」
俺はおまえが好きだった。今でも好きだ。でも俺はおまえに何もしてやれない。
あのときも、そして、今も…俺はおまえに何ひとつしてやれないんだ。
その後、弥生の消息を聞くことは、二度となかった。
Ending No.3 弥生失踪END
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次以降の問題でも苦労したが、必死になって解いていった。
古文をとばしているから、最後まで終わった時点でまだいくらか時間がある。
よし、ここから古文に戻って…。
そのとき俺は、衝撃的な事実に気づいた。
【翔斗】「最後の問題までやったのに、解答欄が余っちゃった…。なぜだろう?」
原因はとうに分かっていたが、あまりにも受け入れたくない現実だった。
【翔斗】「大学入試センターもうっかり者だなあ…解答欄の数を間違えるなんてさ、はは…」
そんなわけがなかった。
ぎゃあああああ! 解答欄をずらしてマークしてしまったああああああ!
早く書き直さなくては! と、俺は慌てて消しゴムを走らせる。
そして次の瞬間、またも自分のあやまちに気づく。
【翔斗】「ひとつずつ消して書き写せばよかったのに、一気に全部消してしまったあああああ!
問題を解き直さないといけなくなったああああああっ!」
一番最初の国語で大失態をおかした動揺で、次の科目、その次の科目と負の連鎖が続いていく。
試験会場から出てきた俺の顔を見た瞬間、弥生も、俺の運命を悟ったらしかった。
【弥生】「だっ…だめでも、死ぬわけじゃないし…じ、人生これからだよっ…」
慰めにならなかった。
俺は当然のように不合格となり、弥生は当然のごとく合格した。
思えば、これが二人の実力だったのかもしれない。
高校卒業後、俺は就職活動をしなければならなくなった。
あちこち会社めぐりをした中のひとつに、陽介の就職した会社があった。
【陽介】「翔斗さあ、もしもうちで内定もらえたら、もうここに決めない?
いつつぶれるか分かんないような情けない会社だけど、働き心地はそんなに悪くないしー」
【社長】「北島君。キミさえもっとマジメに働けば、うちがつぶれる心配はないんだけどね」
社長のメガネがキラッと光った。
【陽介】「ひっ! しゃ、社長、聞いてたんスかっ! えーっと、肩をおもみしましょうか、はは…」
【社長】「なんなら、難波君を雇ってみてもいいんだよ、キミのかわりに、ね…」
【陽介】「そっ、それはお許しをぉぉぉ!」
【翔斗】「じゃあ社長、そういうことで、よろしくお願いします!」
【陽介】「こらあっ! よろしくお願いするなよっ!」
結局俺は、陽介の会社に雇われることになった。同学年だが陽介よりも後輩になる。
まさか職場まで陽介と一緒になるとは思わなかった。これが腐れ縁というやつだろうか。
俺は就職、弥生は大学生、ちなみに今野は県外に出て働いている。
それぞれの道に進んだものの、俺はずっと弥生が好きだった。
しかし、仕事が忙しくて余裕がなく、会う機会もなくなったせいで、なかなか告白できずにいた。
そんなある日。
【陽介】「翔斗さあ、おまえ、まだ早田のことが好きなの?」
【翔斗】「ま、まあな…」
【陽介】「そうか…。じゃ、おまえにつらいこと言わなきゃなんないけど…」
俺はドキッとした。
【翔斗】「そ、早田に彼氏でもできたのか? は、ははは…まあ、そうだよな。
俺なんかとは、最初から釣り合わなかったんだ。あいつには、俺よりもっといい男が…」
陽介の目は厳しかった。
【陽介】「もしそうならいいんだよ。おまえは落ち込むけど、早田が幸せになってくれれば…。
おまえもきっとそう考えて、あきらめようとするだろ。それならいいんだ。
そうじゃないから、つらいんだよ」
【翔斗】「ど、どういうことだ。早田に何か起きたのか?」
【陽介】「実は、大学行ってる先輩から、こないだ聞いた話なんだけどね…」
弥生は、高三の終わりにいじめられたのがショックだったらしい。
いや、そのいじめの原因が、自分が今野を傷つけてしまったことも、弥生にとってはショックだろう。
大学生になっても、弥生はずっと友達ができなかった。
機会はいくらでもあったはずなのに、作ろうとしなかった。
【陽介】「もちろんおまえを責めるつもりはないけど…。
このときおまえが行って、告白してやればよかったんだよな。
早田もおまえのこと、嫌いじゃなかったし」
大学に入っても独りで寂しそうな弥生に、親切に声をかけてくれた先輩がいたらしい。
それが、陽介の先輩の言葉を借りると、「よりによって」という男だったのだ。
【陽介】「早田はよっぽど寂しかったんだろうなぁ。最悪の男に、引っかかっちまった…。
やばい連中とつながってるような男で、優しい言葉で女を誘い込むような奴らしい…」
【翔斗】「そ…それで早田は今どこにいるんだ」
【陽介】「俺も先輩にそれを聞いたけど、教えてもらえなかった。
『教えたら行くだろ』ってね…。そういう場所にいるらしいんだ…」
陽介は抑えた声で、しかし、はっきりと言った。
【陽介】「早田のことは忘れろ! あいつはきっと、もう普通の世界には戻って来ない。
俺たちの手の届かない場所に、消えちまったんだよ…」
【翔斗】「早田……俺は…」
俺はおまえが好きだった。今でも好きだ。でも俺はおまえに何もしてやれない。
あのときも、そして、今も…俺はおまえに何ひとつしてやれないんだ。
その後、弥生の消息を聞くことは、二度となかった。
Ending No.3 弥生失踪END
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