第七話
人間、決断力が大切だという。
このまま数学を受け続けても、この先の問題はもう考えることもできないだろう。
【翔斗】「せ、先生…。すみません、トイレに…」
俺は数学を途中退席して、トイレに向かった。
どうにか腹具合は落ち着いたが、痛手が大きい。他の科目で挽回できる自信がない。
それでも、出来るだけのことはやった。
【弥生】「ふぅん。そんなことがあったのに、よく合格できたね」
【翔斗】「そのあとの科目に影響しなかったからな。それに、痛手と思った数学も…」
俺は笑って答えた。
【翔斗】「…後からもう一回解き直してみたら、残りはどうせ解けない問題ばっかりだった」
【弥生】「しょ、翔斗くん…数学そんなんで、よく受かったわね…」
今となっては、もう笑い話。受験の思い出話のひとつになっている。
俺と弥生は、楽しい学生生活を送ることになった。
俺は文学部、弥生は国際社会学部で授業は別々のものが多いが、
高校時代よりもずっと自由時間が多く、一緒に過ごせる時間も増えた。
俺たちは一緒のサークルにも入った。
『SQS団』=「世界のQuestionを大いに紹介する団」という、不思議探しサークルだ。
そこでも俺たちは仲良しで、付き合ってるんじゃないかという噂も立てられた。
【冬月】「あんたら本当に付き合ってないの? えぇ? 隠し事はよくないよ?」
と、団長の涼寺冬月にも冷やかされた。
某アニメのパロディーなのに、団長の名前がなぜか駆逐艦なのは気にしないでほしい。
付き合ってはいないが、付き合っているような微妙な関係…。
不満はなかった。
でも、このまま「仲のいい友達」で終わりたくない。
俺は告白をしようと意を決した。
【翔斗】「なぁ、弥生。お、俺、俺っ…」
俺たちはもう互いを名前で呼び合う仲になっている。
【弥生】「? どうしたの…?」
【翔斗】「俺っ…す、す、好きだ!…………あ、いやそのっ、そこの店のラーメンが好きだ…」
【弥生】「…はぁっ? そんなに緊張して言うことか、それが?」
ふられたら今の関係すら壊れるのが怖くて、俺はどうしても言えなかった。
結局、俺は何も言えないまま大学を卒業してしまった。
一緒に就職活動をして、運良く同じ会社に就職できたが、それでも俺たちはそのままだった。
それから二年後、県外に就職したはずの今野が、突然地元に帰ってきた。
【美咲】「給料は良かったけど、人間関係がひどくて…耐えられなかったのよ…」
【弥生】「美咲って頭はいいし、てきぱきしてるから、うまくやってると思ってたよ…」
【美咲】「それがダメなの。先輩よりも成績が良かったから、とたんに目をつけられて」
成績が良すぎるから居られなくなるなんて、世の中、難しいものだ。
しかし今野の能力を知っている取引先の会社に無事再就職できたのが、不幸中の幸いだった。
【美咲】「…で、あんたら、付き合ってどれくらいなの? 結婚の予定とかは?」
【翔斗&弥生】「はっ?…」
俺たちは仲良しだが、付き合ってすらいない。
【美咲】「はあああっ? 難波君、あんた何やってたの?
高校時代から弥生に惚れ込んでたの見え見えだったのに、まだ告白すらしてないの?」
俺の時間が止まってしまうかのように、すべてを一瞬でぶちまける今野のセリフだった。
【美咲】「弥生はどうなの? 難波君が嫌い? それとも好き?」
【弥生】「へっ? いや、もちろん、嫌いとか全然ないし好きだけど、でもっ…」
【美咲】「でも…何なの。そういう意味の『好き』じゃないってことかぁ。ふぅん…。
じゃあ、私が難波君に告白してもいいのね?」
【弥生】「あ、だめっ、それはっ…」
【美咲】「どうしてダメなの?」
【弥生】「…………」
顔を真っ赤にして下を向いてしまう弥生。
【美咲】「ほら、男のほうから言ってやりなさいよー」
俺はもう言うしかなかった。
弥生の返事も、もう分かったから、ためらう必要はない。
【翔斗】「お、俺は、おまえ、おまえのことが…、す…」
ぐしっ、と今野に殴られた。
【美咲】「…私のほうを向いたまんまで言うなっ! 誰に告白してるんだ、あんたはっ!」
俺はしっかり弥生のほうに向き直した。
【翔斗】「弥生、俺と…俺と…つ、つ…つき…つき…付き…、月でも見に行かないか?」
げしっ、と今野に殴られる。
【美咲】「お月見に誘ってどうするんじゃあああああっ!」
【弥生】「翔斗くんっ…付き合ってください!」
先に言われてしまった。
【翔斗】「あ、はいっ、了承です…」
今野が苦笑いした。
【美咲】「難波君、あんた絶対、弥生の尻に敷かれるねー」
【弥生】「いやっ、わ、私、だ、大丈夫。大切に敷くから…」
【翔斗】「敷くのかよっ!」
結局、俺と弥生をつないでくれたのは、
あのとき弥生と仲直りした今野だった。
今では俺と弥生、そして今野も含めて家族のようなものだ。
仕切りたがりの今野は、「私が考える」と言って、もう命名辞典などを買いそろえている。
【翔斗】「おい美咲よ…弥生はまだ妊娠三ヶ月だ。気が早すぎやしないか」
【美咲】「だめっ。弥生と翔斗くんの子は、私の子も同然なんだからね!」
弥生も幸せそうに笑っている。
今野も、少々うるさい時もあるが、俺たちの頼れる友人だ。
Ending No.7 TRUE END
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このまま数学を受け続けても、この先の問題はもう考えることもできないだろう。
【翔斗】「せ、先生…。すみません、トイレに…」
俺は数学を途中退席して、トイレに向かった。
どうにか腹具合は落ち着いたが、痛手が大きい。他の科目で挽回できる自信がない。
それでも、出来るだけのことはやった。
【弥生】「ふぅん。そんなことがあったのに、よく合格できたね」
【翔斗】「そのあとの科目に影響しなかったからな。それに、痛手と思った数学も…」
俺は笑って答えた。
【翔斗】「…後からもう一回解き直してみたら、残りはどうせ解けない問題ばっかりだった」
【弥生】「しょ、翔斗くん…数学そんなんで、よく受かったわね…」
今となっては、もう笑い話。受験の思い出話のひとつになっている。
俺と弥生は、楽しい学生生活を送ることになった。
俺は文学部、弥生は国際社会学部で授業は別々のものが多いが、
高校時代よりもずっと自由時間が多く、一緒に過ごせる時間も増えた。
俺たちは一緒のサークルにも入った。
『SQS団』=「世界のQuestionを大いに紹介する団」という、不思議探しサークルだ。
そこでも俺たちは仲良しで、付き合ってるんじゃないかという噂も立てられた。
【冬月】「あんたら本当に付き合ってないの? えぇ? 隠し事はよくないよ?」
と、団長の涼寺冬月にも冷やかされた。
某アニメのパロディーなのに、団長の名前がなぜか駆逐艦なのは気にしないでほしい。
付き合ってはいないが、付き合っているような微妙な関係…。
不満はなかった。
でも、このまま「仲のいい友達」で終わりたくない。
俺は告白をしようと意を決した。
【翔斗】「なぁ、弥生。お、俺、俺っ…」
俺たちはもう互いを名前で呼び合う仲になっている。
【弥生】「? どうしたの…?」
【翔斗】「俺っ…す、す、好きだ!…………あ、いやそのっ、そこの店のラーメンが好きだ…」
【弥生】「…はぁっ? そんなに緊張して言うことか、それが?」
ふられたら今の関係すら壊れるのが怖くて、俺はどうしても言えなかった。
結局、俺は何も言えないまま大学を卒業してしまった。
一緒に就職活動をして、運良く同じ会社に就職できたが、それでも俺たちはそのままだった。
それから二年後、県外に就職したはずの今野が、突然地元に帰ってきた。
【美咲】「給料は良かったけど、人間関係がひどくて…耐えられなかったのよ…」
【弥生】「美咲って頭はいいし、てきぱきしてるから、うまくやってると思ってたよ…」
【美咲】「それがダメなの。先輩よりも成績が良かったから、とたんに目をつけられて」
成績が良すぎるから居られなくなるなんて、世の中、難しいものだ。
しかし今野の能力を知っている取引先の会社に無事再就職できたのが、不幸中の幸いだった。
【美咲】「…で、あんたら、付き合ってどれくらいなの? 結婚の予定とかは?」
【翔斗&弥生】「はっ?…」
俺たちは仲良しだが、付き合ってすらいない。
【美咲】「はあああっ? 難波君、あんた何やってたの?
高校時代から弥生に惚れ込んでたの見え見えだったのに、まだ告白すらしてないの?」
俺の時間が止まってしまうかのように、すべてを一瞬でぶちまける今野のセリフだった。
【美咲】「弥生はどうなの? 難波君が嫌い? それとも好き?」
【弥生】「へっ? いや、もちろん、嫌いとか全然ないし好きだけど、でもっ…」
【美咲】「でも…何なの。そういう意味の『好き』じゃないってことかぁ。ふぅん…。
じゃあ、私が難波君に告白してもいいのね?」
【弥生】「あ、だめっ、それはっ…」
【美咲】「どうしてダメなの?」
【弥生】「…………」
顔を真っ赤にして下を向いてしまう弥生。
【美咲】「ほら、男のほうから言ってやりなさいよー」
俺はもう言うしかなかった。
弥生の返事も、もう分かったから、ためらう必要はない。
【翔斗】「お、俺は、おまえ、おまえのことが…、す…」
ぐしっ、と今野に殴られた。
【美咲】「…私のほうを向いたまんまで言うなっ! 誰に告白してるんだ、あんたはっ!」
俺はしっかり弥生のほうに向き直した。
【翔斗】「弥生、俺と…俺と…つ、つ…つき…つき…付き…、月でも見に行かないか?」
げしっ、と今野に殴られる。
【美咲】「お月見に誘ってどうするんじゃあああああっ!」
【弥生】「翔斗くんっ…付き合ってください!」
先に言われてしまった。
【翔斗】「あ、はいっ、了承です…」
今野が苦笑いした。
【美咲】「難波君、あんた絶対、弥生の尻に敷かれるねー」
【弥生】「いやっ、わ、私、だ、大丈夫。大切に敷くから…」
【翔斗】「敷くのかよっ!」
結局、俺と弥生をつないでくれたのは、
あのとき弥生と仲直りした今野だった。
今では俺と弥生、そして今野も含めて家族のようなものだ。
仕切りたがりの今野は、「私が考える」と言って、もう命名辞典などを買いそろえている。
【翔斗】「おい美咲よ…弥生はまだ妊娠三ヶ月だ。気が早すぎやしないか」
【美咲】「だめっ。弥生と翔斗くんの子は、私の子も同然なんだからね!」
弥生も幸せそうに笑っている。
今野も、少々うるさい時もあるが、俺たちの頼れる友人だ。
Ending No.7 TRUE END
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