第五話

【翔斗】「きっとオが正解にちがいない。オだあああ!!」


そしてついに、合格発表の日を迎えた。

俺は会場まで行って、自分の受験番号があるかどうかを、
目を皿のようにして必死に探した。

【翔斗】「ええと…5963…5963は…」

掲示板には、受験番号がずらりと並んでいる。

5952、5956、5957、5960…5965…

【翔斗】「…な、ない……お、俺の受験番号が…ない…」

俺は落ちたのだ。
俺はぼうぜんとその場に立ち尽くした。
あの答えは「ウ」が正解だった。
「ウ」を選んでいたら、もしかしたら別の結果があったかもしれない。

ただ固まっている俺に、声をかけてきた人がいた。

【弥生】「難波君…」

【翔斗】「早田か…お、俺…ダメだったみたいだ。おまえと一緒に大学生には…」

【弥生】「ううん。私も、ダメだったよ…」

俺は驚いた。どっちに転んでもおかしくなかった俺はともかく、
ずっと前から合格を確実視されていた弥生まで落ちるなんて。

【翔斗】「受験って…難しいものだな。俺は浪人できないから就職活動になるけど、早田は…?」

【弥生】「私は…わからない。もう一度挑戦してみたい気持ちはあるけど…」

弥生は、来年もがんばってみると言って受験勉強を続けようとした。
しかし、現役のときよりかえって勉強が進まず、悩む日々が続いた。
そしてとうとう、夏ごろには就職活動に舵を切った。

俺は弥生と一緒に就職活動を続けた。

【弥生】「難波君、この会社って、たしか…」

【翔斗】「ああ、陽介が働いてる会社だ」

俺たちは一緒に、その会社も受けた。
社長さんは、優秀な弥生を気に入ってすぐに採用を決めたが、俺はそうはいかなかった。
それもそのはずだ。
小さな会社なので、去年採用されたのも陽介一人。
今年だって、弥生一人。二人の採用枠なんて、あるはずもなかった。


結局、正規で雇ってくれるところは見つからず、俺はある会社に非正規で採用された。
が、ここがとんでもないブラック企業で、過労死寸前で会社をやめ、
アルバイトの掛け持ちで食いつなぎながら正規採用を探し続けることにした。

【翔斗】「いてて…あのブラック企業でこき使われて、モロに腰をやっちまったからなぁ…。
立ち仕事もデスクワークも出来ない俺を雇ってくれるところなんて…簡単には…」

これでは正規採用どころか、アルバイトだってろくにできない。

会社とのトラブルでイラついていたこともあって、俺はささいなことで親と大喧嘩して、
今さら親元に世話になるわけにもいかなかった。

【翔斗】「あれ…俺に、手紙が来てる…。誰だろう…」

ボロアパートのポストに投函されていた手紙は、陽介からだった。

部屋に戻って開封し、読み進んでいくうちに、俺は力が抜けてへたりこんだ。

【翔斗】「よ、陽介が…早田と結婚、だと…」

陽介の会社に就職した弥生は、もともと知り合いだっただけに
一緒に働いているうちに陽介と親密になっていった。
若い社員が二人だけだったこともあり、
社長さんが仲に立って結婚することになったという。

俺にとって、最後の希望の光が弥生だったのに。
いつか、しっかりした職について、そのとき弥生に告白する。
それが俺の目標で、すべての原動力だったのに…。


【陽介】「結局、翔斗の奴…俺たちの結婚式にも、来なかったなぁ…」

【弥生】「うん…、電話もメールもLINEも通じないから、私も心配になってね。
このまえ仕事帰りに、難波君のアパートに寄ってみたんだけど…
人の気配がないのよ」

【陽介】「弥生も行ったのか…。実は俺、言いづらくて黙ってたんだけど、あいつ…
先月、アパートを追い出されたんだってさ。家賃滞納で…。実家にも戻ってないし…」

【弥生】「…ええっ…じゃあ、難波君はどこに行ったの?」

【陽介】「さぁ…親御さんももう縁を切ったって言ってるし、
どこかで生きてるだろうとは思うんだけど…」


そう、俺は生きている。

しかし、悲しい思い出しか残らなかったこの街には、もう、いたくなかった。
俺は生きている…だが、生きていると言えるのだろうか?
死んでいないだけじゃないか…。

誰も知らない遠く離れた土地で、俺はずっと、絶望と戦い続けている。



Ending No.2 翔斗失踪END

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