第五話

【翔斗】「俺、受験はあきらめて就職先を探します」

【権藤】「そうか。今からでも急げばなんとかなるだろう。気合いを入れて行けよ」

こうして俺は進路を就職に切りかえた。

が…。

【父】「ばっかもーん! 勉強してもだめだったのなら仕方ないが、
ろくに勉強してないくせに成績が悪いから就職するだと?
社会を甘く見るな! そんな甘っちょろい考え、断じて許さんぞ!」

【翔斗】「でも、権藤先生も、今からだと公立も難しいって…」

【父】「そんなことは勉強してから言え! 勉強してだめなら就職でいい。
何を、楽なほう楽なほうに逃げとるんだ!」

秋も深まって「まず勉強してだめだったら就職」なんて言われても、
勉強してだめだった時には就職先もなくなってるんだよバーロー!

そのあと俺だけ臨時にもう一度三者面談をしてもらって、
どうにか、親にも進路変更を認めてもらうことができた。

クラスの中を見渡しても、進学先、就職先、何も決まっていないのは俺だけだった。

今野は県外の会社に内定をもらい、陽介も市内の小さな会社に就職が決まった。
弥生はセンター試験にむけて順調に勉強している。
そのセンター試験もうまくいって、あとは二次試験の英語を残すものの、
もう合格したようなものだった。

俺は必死になって就職先を探し回ったあげく、
卒業間際になってやっと、市内の一社から内定をもらった。


俺は四月から社会人となった。

ところが、ここがとんでもない会社だった。
サービス残業、サービス休日出勤などは当然で、
社長の自宅の庭掃除から、社長の息子の引っ越し手伝いまで仕事としてさせられた。
給料は見かけ上高いが、「親睦会費」という名目で毎月数万円も引かれる。
そんな親睦会など開かれることもなく、
社員から集めた巨額の親睦会費がどこに消えているのか、知る者は誰もいない。

社長の甥っ子が、社員たちの親睦会費で高給乗用車を買ったという噂もある。

夏には、社長の自宅の改装工事の手伝いをさせられた。
そのとき、俺は冷蔵庫を運ぼうとして腰の骨を痛めてしまった。

結局、仕事ができなくなったという理由でクビになった。
労働法違反だが、自主退職願いを無理やり書かされたのである。


それから俺はアルバイトで食いつなぎ、別の就職先を探そうとした。
しかし、痛めた腰がさらに悪化し、アルバイトもままならなかった。


【父】「ふざけるな。大学に行けというのをどうしても聞かずに就職して、
今度は、働けないから助けてくれだと! 甘えるな!」

父は怒りながらも、俺の腰の状態を見てむげに追い出すわけにもいかず、
俺はしばらく実家で治療に専念することになった。

【翔斗】「早田はもうすぐ大学三年生か…。ニートのままの俺では、告白なんか夢のまた夢だ…」

というか、弥生は大学で、すでに彼氏を作っていて、
高校時代の最後にあの誤解が元で離れた俺など、もう友達にも含まれていない。

腰が治るのを待って、再び就職活動をする。

しかし、一度痛めたところは再発しやすく、重い物を持つことは医者に禁止されていた。
そんなことを言っていたら仕事がみつかるはずもない…と気合いを入れ直し、
今度は陽介の会社に非正規で雇ってもらったが、やはり荷物の運搬中に同じ場所を痛めてしまった。

陽介の会社も退職した。

大学に進学した弥生たちが卒業する時になっても、俺は無職、ニートのままだった。

体じゅう、腰だけでなくあちこちの骨を痛めてしまった俺は、もう使い物にならない。
立ち仕事もデスクワークもできない。

【翔斗】「高校時代…体を自由に動かせたあのころが、なつかしい…」

ニートの俺は、平日の昼間から、そんなことを考えて窓の外を眺めるばかりであった。



Ending No.10 翔斗ニートEND

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