【翔斗】「俺、受験はあきらめて就職先を探します」
【権藤】「そうか。今からでも急げばなんとかなるだろう。気合いを入れて行けよ」
こうして俺は進路を就職に切りかえた。
が…。
【父】「ばっかもーん! 勉強してもだめだったのなら仕方ないが、
ろくに勉強してないくせに成績が悪いから就職するだと?
社会を甘く見るな! そんな甘っちょろい考え、断じて許さんぞ!」
【翔斗】「でも、権藤先生も、今からだと公立も難しいって…」
【父】「そんなことは勉強してから言え! 勉強してだめなら就職でいい。
何を、楽なほう楽なほうに逃げとるんだ!」
秋も深まって「まず勉強してだめだったら就職」なんて言われても、
勉強してだめだった時には就職先もなくなってるんだよバーロー!
そのあと俺だけ臨時にもう一度三者面談をしてもらって、
どうにか、親にも進路変更を認めてもらうことができた。
クラスの中を見渡しても、進学先、就職先、何も決まっていないのは俺だけだった。
今野は県外の会社に内定をもらい、陽介も市内の小さな会社に就職が決まった。
弥生はセンター試験にむけて順調に勉強している。
そのセンター試験もうまくいって、あとは二次試験の英語を残すものの、
もう合格したようなものだった。
俺は必死になって就職先を探し回ったあげく、
卒業間際になってやっと、市内の一社から内定をもらった。
俺は四月から社会人となった。
ところが、ここがとんでもない会社だった。
サービス残業、サービス休日出勤などは当然で、
社長の自宅の庭掃除から、社長の息子の引っ越し手伝いまで仕事としてさせられた。
給料は見かけ上高いが、「親睦会費」という名目で毎月数万円も引かれる。
そんな親睦会など開かれることもなく、
社員から集めた巨額の親睦会費がどこに消えているのか、知る者は誰もいない。
社長の甥っ子が、社員たちの親睦会費で高給乗用車を買ったという噂もある。
夏には、社長の自宅の改装工事の手伝いをさせられた。
そのとき、俺は冷蔵庫を運ぼうとして腰の骨を痛めてしまった。
結局、仕事ができなくなったという理由でクビになった。
労働法違反だが、自主退職願いを無理やり書かされたのである。
それから俺はアルバイトで食いつなぎ、別の就職先を探そうとした。
しかし、痛めた腰がさらに悪化し、アルバイトもままならなかった。
【父】「ふざけるな。大学に行けというのをどうしても聞かずに就職して、
今度は、働けないから助けてくれだと! 甘えるな!」
父は怒りながらも、俺の腰の状態を見てむげに追い出すわけにもいかず、
俺はしばらく実家で治療に専念することになった。
【翔斗】「早田はもうすぐ大学三年生か…。ニートのままの俺では、告白なんか夢のまた夢だ…」
というか、弥生は大学で、すでに彼氏を作っていて、
高校時代の最後にあの誤解が元で離れた俺など、もう友達にも含まれていない。
腰が治るのを待って、再び就職活動をする。
しかし、一度痛めたところは再発しやすく、重い物を持つことは医者に禁止されていた。
そんなことを言っていたら仕事がみつかるはずもない…と気合いを入れ直し、
今度は陽介の会社に非正規で雇ってもらったが、やはり荷物の運搬中に同じ場所を痛めてしまった。
陽介の会社も退職した。
大学に進学した弥生たちが卒業する時になっても、俺は無職、ニートのままだった。
体じゅう、腰だけでなくあちこちの骨を痛めてしまった俺は、もう使い物にならない。
立ち仕事もデスクワークもできない。
【翔斗】「高校時代…体を自由に動かせたあのころが、なつかしい…」
ニートの俺は、平日の昼間から、そんなことを考えて窓の外を眺めるばかりであった。
Ending No.10 翔斗ニートEND
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